─ 今日は貸衣裳ぽえむの歴史や思いを次の世代に受け継いでもらうため、若手スタッフも交えてお話を聞かせていただきます。まず、三澤さんが入社したきっかけを教えてください。
三澤 私はもともと、美容師の仕事をしていました。いせや写真館とはその頃からのお付き合いで、うちの美容院が専属契約していた結婚式場を通して、一緒に仕事をさせてもらっていました。前撮りの撮影が入れば本店へ行き、お嫁さんのヘアメイクと着物の着付けをしていたので、前社長や当時のスタッフにはとてもお世話になっていたんですよ。それに前社長と奥さまは、お客さんとして美容院にも来てくださっていたので、プライベートでも顔なじみでした。
そのあと、私は結婚と出産を機に美容院は辞めてしまったのですが、しばらくして社会復帰すると、入社した会社が阪神淡路大震災の影響を受けて、突然解散することになってしまったんです。困っていると、見かねた前社長が私に声をかけてくださり、また以前のように、本店で七五三の着付けやヘアメイクを担当させてもらえることになりました。
─ いろいろと紆余曲折があっての入社だったんですね。
本店スタッフから貸衣裳ぽえむの立ち上げメンバーへ抜擢されたのは、どういう経緯だったんですか?
三澤 本店勤務を始めて8年ほど経った頃、着物の知識があることと、撮影でシンデレラポエムへ出入りしていたこともあって、貸衣裳ぽえむの立ち上げメンバーに加わることになりました。最初はスタッフ3人でのスタートでした。
当初は問い合わせメールが届いても、「メール来たよ…!!どうする?誰が見る?」とか、電話が鳴っても対応が分からないので、「誰が出る?」といった状況で…(笑)私はパソコンが得意ではなかったので、準備段階から本当に手探り状態でした。
だから一件目の注文が入ったときは、「こんな風に入ってくるんや!」と感動したのを覚えています。いまもそうなんですが、あの頃は特に、お客様と一緒に成長させてもらっている感覚でしたね。
─ 同じ着物を扱う仕事とはいえ、仕事内容は大きく変化したと思うんですが、とまどいはありませんでしたか?
三澤 確かに、お客様を着付ける仕事から、着物を届ける仕事がメインになりましたが、その辺の違和感はあまりありませんでしたね。というのも、ECサイトに掲載する着物のコーディネートは立ち上げ当初から全て私が担当しているので、感覚的には着付けに配送が加わった感覚なんです。
それに、“配送でどう喜んでもらうか”を考えるのって、結構奥が深いんですよ。お客様にはモノが届くだけなので、接客みたいにごまかしが利きませんからね。
だから最初の頃は、伝票を貼り間違えて違うお客様のところへ商品を送ってしまったり…(苦笑い)それなりに失敗もたくさんしましたが、美容師に戻りたいと思ったことは一度もありません。いまはいまで、楽しいです。
─ 届くモノで勝負する…きっと簡単なことではないですよね。
立ち上げ当初、3人で運営していくことについての不安やプレッシャーはなかったんですか?
三澤 それはありませんでしたね。社長もよく応援に来てくださっていたので。それに当時はとにかく3人で、“どうしたらお客さんに喜んでいただけるか”を考えることに夢中だったので、不安やプレッシャーを感じる暇もなかったように思います(笑)
最初は「一人ひとりのお客様を大切にすること」をモットーに、一件ずつ“ありがとうございました”と手書きのメモを必ず添えて商品を送るようにしていました。もちろん最初は不慣れな分、クレームもありましたけど、二度と同じクレームを受けないよう、その度に解決策を考えてやっていましたね。その誠意が伝わってか、以前にクレームをいただいたお客様から再度ご利用いただけたときは、本当にありがたく感じます。
─ 他にも、立ち上げ当初からいまも気を付けていることや、接客でのこだわりはあるのですか?
三澤 私たちが扱っている商品は、レンタルとはいえ決して安いものではないので、届いたときに「わぁ綺麗、素敵!」と着物自体の価値はもちろん、それ以上の付加価値を感じていただけるよう、梱包にはこだわっています。着物の畳み方一つとっても、着るときにシワにならないよう気を付けていますし、小物や付属品も雑にまとめるのではなく、ヒモ一本でも大切な商品として、貸衣裳ぽえむのブランドネームが入った専用の包装紙で一本ずつ、丁寧にお包みしています。
ケースに付ける荷札も一緒です。手書きでお客様の名前を書くので、「悪いけど字が汚い人は書かないでね」とスタッフに注意しているくらい、厳しく管理しています。届いたときに、自分の名前が雑に書かれていたら嫌な気持ちになりますよね?書かれた字ひとつにも、お客様を思う気持ちが宿るし、伝わると思うんです。そういう、第一印象の特別感にはこだわっています。
どんな仕事もそうですが、大事なのは、サービスを提供する自分たちが満足しないことです。私は“100%完璧な仕事”って、いままでも、これからも絶対ないと思ってます。お客様は十人十色なので、サービスはこれからも変わっていくものだと思うし、変わるべきだと思っています。
─ その思いと共に、この事業は大きくなっていったんですね。
拠点がシンデレラポエムから中川原へ移ると決まったときは、どんな心境でしたか?
三澤 そうですね、仕事に対しての不安と言うより、人間関係の不安がありました。というのも、シンデレラポエムで始まった事業ではありましたが、途中からマンパワーが足りなくなって、子供衣装は全て本店に任せるようになったんです。それでも当時は電話でのやり取りだけで、本店のスタッフと顔を合わせて仕事することはなかったですし、どういう人柄かも分からないので合併の話が決まったときは不安でしたね。
でも、実際に中川原へ移転してみたら、そんな心配は不要でした。新しいチームとして、シンデレラポエムからは2名、本店からは5名のスタッフが新しいチームとして構成されたわけですけど、探り探りなのは最初だけで、思ったよりもすぐ慣れました。みんなハッキリとモノを言える人たちだったので、想像していたような、女性の職場特有の陰口や、ドラマみたいなドロドロとした環境には全くならなかったです(笑)
それに若手もベテランも関係なく、ランチはいつもスタッフみんなで一緒に食べているので、むしろ仲はすごく良いんです。
─ それは素敵な環境ですね。社長からは、“年々忙しくなっている”と伺っていますが、実際はどうですか?
三澤 はい、自分の中でも毎年忙しさが更新されていってます(笑)
普段は受注処理が5名、私たち配送・メンテナンスが10名、計15名体制で作業しているのですが、繁忙期はそこへ短期パートを10名ほど増員しないと回らない状況です。
お客様が増えることは本当にありがたいことですが、やっぱり忙しくなればなるほど、一つひとつの作業もおざなりになりやすく、そうするとミスもしやすいので、いつも以上に集中力が必要になってきます。
ピーク時は特に、慌てると小さなシミやシワを見落としがちなので、落ち着いて、丁寧かつスピーディーにこなさなければいけません。
特に着物は、特別な日に着るものですよね。それだけお客様の期待値も高いし、その日を心待ちにしていらっしゃるので、こちらの不手際でお客様にがっかりさせる結果になってしまっては、こちらとしてもつらいですからね。
ただの流れ作業にならないよう、一つひとつの作業に気持ちを込めています。
─ 配送は体力と集中力がいる、大変な作業なんですね。三澤さんにとって、この仕事のやりがいはなんですか?
三澤 それはやっぱり、お客様の声です。先ほども話ましたが、私はECサイトに掲載する着物のコーディネートも担当しています。美容師時代から一番プライドと自信を持ってやってきていることなので、実際にお客様からコーディネート通りに注文が入ると「成功や!」とやりがいを感じます。
あとはお客さんがうちの着物を着て、周りに褒められたときは嬉しいですよね。中には美容院で着付けてもらう方も多いので、「美容師さんから褒められました」とお声をいただいたときは、プロの目から褒めてもらえたわけですから、励みになります。
職業病か、普段テレビで演歌歌手の方が歌っているのを見ると、つい着ている着物に目がいってしまうんですよね。勉強になるので、“こんな色合わせもアリなんや…”と思ったら、すぐ社長に「この色の帯買ってください!」って頼んでます(笑)
コーディネートを考えてるときが、一番楽しいんです。
─ 三澤さんは、いせや写真館のスタイリストでもあるわけですね。コーディネート以外に、貸衣裳ぽえむで養われたことはありますか?
三澤 そうですね…。美容師時代は個人で完結する仕事だったので、みんなと一緒に何かをするというのは、ここへ来て初めての経験でした。みんなでいろいろなことを共有し合い、言い合えるという環境は、わたし自身、人として成長できた部分がたくさんあったように思います。
例えば昔の私だったら、“私はこう思うからこうしていきたい!”と貫くタイプだったけど、ちょっと周りも見えるようになったりとか。自分が言う前に、まずは相手の話を聞こうと思えるようになりましたね(笑)一人の職場ではないから、視野が広くなったんだと思います。
もちろんそう思えるようになれたのは、良いスタッフに恵まれたおかげです。
─ みんなで働く中で、協調性が養われたんですね。ところで最近は、新卒社員も増えているようですが、コミュニケーションはどのように取られているんですか?
三澤 もう完全に、“母”のような気持ちですよね!(笑)だから仕事以外でも、アカンところはハッキリ「ここアカンよ!」と指摘してしまいます。例えば靴の脱ぎ方とかもそうですし、“玄関はお客さんが来る場所だから、常に掃除して綺麗にせなアカンよ!”とつい口うるさくしてしまいますね。
働く以上は同じスタッフなので、年の差を気にすることはありません。お互いを尊重し、対等に仕事をします。だから着物の畳み方が汚ければ、“新人だから仕方ないね”ではなく、「それ汚いよ、やり直して!」と容赦なく伝えますからね(笑)
─ 吉田さん、そうなんですか?!(笑)
吉田 はい(笑) でも、言われたら確かに汚いなと思うので畳み直してます。
三澤 いつも素直に「すみません」て畳み直してくれるよね(笑)
でも、私は立ち上げからいることもあって、どうしてもこれまでの経験や固定観念に縛られがちなので、これから新人スタッフには、“どんどん新しい風を吹かしていってもらいたい”という思いもあるんですよ。
とはいえ私もまだまだ“自分でやった方が早い”と思ってしまって、全てを安心して任し切れていない部分があるんですけど…(苦笑い)やり方だけでなく思いまでしっかり伝えて、次の世代へ引き継いでいかなければいけないし、いつまでもプレイヤーでいるのではなく、状況を見守る立場に回っていけたらなとは思ってます。
─ 立ち上げから見ていれば、思い入れも人一倍おありだと思います。その伝え継ぎたい思いも含めて、これから新しい仲間が加わるとしたら、どんな人と働きたいですか?
三澤 貸衣裳ぽえむは、年間を通して1万2千件以上の注文を受けています。9月から4月の繁忙期になると、一日の注文が100件を超えることもあります。もちろんそれを配送日までに、全て正確に、手際良く準備していくわけですから、現場はまさに戦場です。
数百という配送待ちの衣装ケースが、天井すれすれで何列にも積み上げられ“衣装ケースの壁”が連なる日も珍しくありません。
そして受注処理と梱包作業に加え、同時に戻ってきた衣装のシミ取りや洗濯、アイロンがけも並行して行うので、現場はとにかく慌ただしいです。
でも、決して忘れてはいけないのは、私たちが扱う商品は“高価な着物”ということです。私たちの仕事は「思い出づくりのメーカー」として、“お客様が大切な日に着る、特別な一着”をご提供する、とても責任のある仕事です。レンタル品とはいえ、その価値を理解し、保ちながらお客様へお届けしなければいけないので、事細かに気を配れる方でなければこの仕事は勤まりません。
もちろん、気を配れるだけではダメです。“ゆっくりきっちり”は誰でもできるけど、うちでは“スピーディにきっちり”こなせなければいけない。“これくらい大丈夫だろう”は一切許されない世界なので、私はこの仕事を、誰でもできる仕事ではないと思っています。
それに繁忙期はとにかく数をこなします。正直、立ち上げからずっといる私でも発狂しそうになることがあるくらいですから、人並みの集中力ではこなせないでしょうね。
これを、ある程度は誰がやっても同じ品質に保っていくことが貸衣裳ぽえむの直近の目標なので、スタッフの育成にはいま以上に力を入れていく予定です。入社を考えている方はまず、ここまでのレベルに到達できる忍耐力があるかどうかを考えてみてください。
それから事業としても、“何も変わらない”というのはいつかは限界がくるので、貸衣裳ぽえむはこれからももっと形を変えて進化していくと思います。それに付いてこれることはもちろん、新しいスタッフにはその仕組み作りも、一緒に考えていってほしいですね。それが、これからの新しい仲間に期待することです。
─ 吉田さん、いまの思いを聞かれてどうですか?
吉田 気が引き締まりますね…!(笑)貸衣裳ぽえむの歴史は、これまで何度か社長から聞く機会はあったのですが、先輩からここまで深く話を聞いたことがなかったので、今日はいい機会に立ち会わせていただきました。これから先輩たちの思いをさらにしっかりと受け継いで、貸衣裳ぽえむに新しい風を吹かせられるよう頑張りたいと思います!
三澤 期待しています!どんどん意見して、トップに立っていってね。私は吉田さんたちに指示を仰いで動くようにしていくから(笑)